身体性の希薄化 ~グローバル化の檻~

前回、現代文明社会に於ける「生活者」、「生産者」、「消費者」の関係について考察しましたが、現代文明社会に於いてはグローバル化の問題を避けて通ることが出来ません。
今回は、グローバル化について考えてみたいと思います。

グローバル化は単なる国際化とは異なります。
グローバル化とは、米国の歴史学者ウォーラーステインのいう「近代世界システム」が顕著に現れた姿であると私は捉えています。

「世界システム」というのは、国や民族を超えた広大な領域がひとつの分業体制に組み込まれることであり、古くは、西欧世界、東アジア世界、地中海世界、イスラム世界等、複数の世界システムが地球上に併存することも有りました。

しかし、コロンブスの新大陸発見後の16世紀以降、西欧と新大陸の間で築き上げられた世界システムが、資本主義の発展とともに、消滅することなく発達し続け、他の世界システムを包摂し、地球上に存在する唯一の世界システムとなります。
これが「近代世界システム」です。

近代世界システムでは、領域が中核と周辺とに分けられ、周辺地域の潤沢な資源や、その資源を基にした生産によって産み出された富が中核地域に集められます。
中核地域と周辺地域との経済格差は拡大します。

かつては中核地域の国家が近代世界システムを主導しました。
企業も貿易が主体のうちは国家がコントロールし易く、国家は十分な税収を得ることが出来ました。
しかし、企業規模が拡大し、周辺地域に製造現地法人を沢山設置するようになると、国家が企業からその全体的な利益に見合った税収を得ることが出来なくなります。
法人所得税を上げると企業が外国に拠点を移すことが可能であるため、国家は法人所得税を低く設定せざるを得ません。
近代世界システムは国家のコントロールを超えて発展して行きます。

TPPなどのEPA(経済連携協定)は近代世界システムすなわちグローバル化をさらに促進します。
EPAの交渉に臨む国はそれぞれの思惑を持っています。
日本は工業部門では中核地域であるため、日本政府や経団連はEPAを積極的に推進しています。
しかし、農業やサービスなど非工業部門では、日本が中核地域でないため、EPAが不利益になり得ます。
また、生活者(消費者)の立場としては、輸入品が安くなるメリットも有りますが、食の安全が脅かされたり、医療皆保険制度の堅持が困難になるリスク等も想定され、EPAは必ずしもは歓迎すべきものと言えません。

グローバル化が発展すると、同じひとつの国の中でも、メリットを得るグループとデメリットを受けるグループとに分断されます。
また、近代世界システムの中核/周辺に似た構造は同じひとつの国内でも存在します。
日本に於ける東京と地方の関係がそれで、富は中核である東京に集中します。
人材を正社員と非正社員に分けて考えるシステムも、中核と周辺に分けるグローバル化的発想と同根と思われます。

グローバル化を人間の身体感覚に譬えると、頭と身体がどんどん離れていく感覚になります。
中核で働いている人は頭だけで考えて仕事し、その抽象的活動は世界中を飛び回りますが、身体は置いてきぼりになり、身体感覚が薄弱になって来ます。
インターネットで四六時中コミュニケーションが取れる時代になってビジネスの速度がどんどん加速して来ると、身体を頭につなぎ直す暇が有りません。

周辺で働いている人はスピーディに効率よく身体を動かすことを求められます。
「何故自分はこんなことをしているんだろう?」などと考えたりすると、スピードに追い付けないので、思考(頭)を切り離さなければやっていられません。
そのようにして頭と身体を切り離して働いていると、自分の生身の身体感覚が鈍磨して来ます。

生活者としての個人はどこかの周辺でローカルな生活をしています。
東京も生活の場としてはひとつの周辺に位置します。
生活者である個人の身体はローカルな場所に存在しますが、PCやスマホが世の中を席巻している現在、多くの人の頭は常に端末の画面の中の非ローカルな世界に遊びがちで、やはり、頭と身体のつながりを失っています。

心は身体との親和性が高いので、身体感覚が希薄になると、情緒が不安定になって来ます。
イライラや焦り、怒りや悲しさ、訳の分からない不安などを感じ易くなります。
自己コントロール感は身体性に宿っているので、これが失われると、自分ではもうどうしようもない、という無力感に襲われます。
そして、自分が生きている意味が感じられなくなります。

この状態から脱するにはどうすればよいのでしょうか。
社会的な環境を変えて行かないと抜本的な解決にはなりませんが、個人として出来ることは自分の身体を労わることです。
無機的な人工物に満たされ、IT化している現代にあって、自分の身体は自分に残された最後の砦です。
この砦を護ることが生命を守るために不可欠です。

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睡眠を十分取り、PCやスマホを制限することで、ノイズとなる情報の流入を遮断します。
マインドフルネス瞑想も有効です。
そして、樹林の有る公園のような有機的な環境に努めて身を置いたり、神社の清浄な境内を歩いたり、モーツァルトの音楽のように理屈抜きにきれいな音楽を聴いたりしていると、身体内のエネルギーが循環し、心身に余裕が出来て来ます。
頭と身体がつながって来ます。

頭と身体がつながると、自分が今どこにいるのかが分かり易くなります。
どの方向に進めば良いかの勘も掴めるようになって来ます。
そして、上手く行けば、具体的に身を置く環境を変える行動につながって行く可能性が出て来ます。

カウンセリングルーム・メイウッド

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